たとえぼくがこの世界のことを忘れても、みんながきみを忘れても、きみがぼくを忘れてしまっても。

きみのことだけは、ぼくがおぼえていたいんだ。






Riabbraciare






「・・・芦川?」
「芦川って、だれ?」

「・・・三谷、ほんとうに、おぼえてないの?」
なぜか心の奥で警告音が鳴る。いやなおと。わすれてはいけない、おもいださなければ、そう心臓がふるえているような、けれど、おもいだしたくないと、何かが制限をかけているような。


*



「・・・芦川、」
「どうしておまえはおれを忘れたんだ」
「芦川、」
「おまえなんか・・・」




「おまえなんか、おれのことどうでもいいと思ってるくせに」




「・・・あし、かわ・・・、」
「おれは、ミタニになんか会いたくないよ」
「あしかわっ、」
「・・・おまえも少し、くるしむといい」


*



どくん。
どくんどくんどくん。
胸が、高鳴る。
血管が暴れる。
耳元で心臓がささやいている。
はやく。
はやく。
はやく、もっと近くへ、
はやく、さあ、
いそいで、その手を、のばして、
「・・・三谷、」
名前が、呼ばれて。
雲に隠れていた月が、完全に姿をあらわして、
「・・・うそ、」
人影が、月に照らされる。
きれいな、きれいな、
色素の薄い、頬と髪が月灯りに照らしだされて、
ちりん。甘く涼やかな、鈴の音色、
「・・・美鶴、」


しらないはずの名前が、なのに妙にしっくりくる名前が、亘が一番欲していた名前が、どこかしらないせかいのことばのように、夜に、零れ、



階段の向こう、夜の先、月の裏側、






扉の開く音が、確かに聞こえた。









「おかえり」
「・・・ただいま、」












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