君と公園とプリン

「悪かったって、」
亘はその声を無視して、ぷいと顔を背けた。
「こっち向けよ」
美鶴に背を向けた亘の肩はぴくりとも動かない。
その強情さに美鶴はため息をついた。亘のポロシャツの後ろ襟に指をひっかけて、無理矢理こちらを向かせる。
上目遣いで睨みつけてくる目を見つめ返して、美鶴は小首を傾げた。
「残してるからいらないんだと思ったんだよ」
「…好きだから最後にとっておいたんだ!」
何事かと、クラスメイトの視線が二人に集まる。
亘は怒りのために頬を真っ赤にしてミツルをなじった。
「返せよ僕のプリン!」
美鶴は呆れたように肩をすくめる。
「芦川くんも子供っぽいことしたりするのねー」
「なんかかわいー」
くすくすと笑う声があちこちであがった。
亘はそれを聞きながら、顔のいいやつはそれだけで得をしていると、ますます腹を立て る。
「まぁまぁ三谷君、落ち着いて」
諫めたのは亘と美鶴のクラス担任だ。結構若くて美人なお姉さん先生で、生徒からは人気 があった。怒る時は怒る先生なのだが、今は笑い混じりに亘を宥めるばかりで、美鶴の勝 手を責める素振りは全く見せない。
女はみんな顔のいい男の味方なんだ、と亘の体は悔しさではちきれそうだった。
「美鶴のバカ!」
亘は腹に力を入れて叫んで、美鶴から離れようと再び背を向ける。
その肩を慌てて捕まえて、美鶴は言った。
「放課後、どっか寄って買ってやるから」
亘はぴくりと肩を揺らす。ゆっくりと首を回して振り向き、美鶴の目を探るように見つめ た。
「約束だ」
差し出された手の小指に、反射的に指を絡める。美鶴は大きく頷いて、繋いだ手を一度だ け上下に振った。
「買い食いはだめよ」
担任からすかさず注意が飛んで、美鶴はひょいと肩をすくめる。ちらりとよこされた目配 せに、亘は思わず笑みをこぼした。


  +


そして放課後。二人は公園のベンチに並んで腰掛けていた。
コンビニで買ってもらったプリンを口に入れて、亘はご満悦だ。プリンといってもただのプリンではない。生クリーム とチェリーが乗せられた、少し値段の張る丸い蓋のプリンである。
「そんなに好きかよ、プリン…」
幸せそうに頬張る亘を眺める美鶴が呆れ顔で呟く。昼の出来事も忘れたように機嫌の良い 亘は大きく頷いた。
「大好き!」
ふーん、と応じた美鶴の顔がなぜか不機嫌そうに見えて、亘は首を傾げた。
「美鶴も食べたいの?」
美鶴は一瞬目を見開いて、ふっと笑みをこぼす。
今まさにプリンをすくったばかりの亘の手首をつかんで引き寄せると、スプーンの上のプ リンをぱくりと口の中に入れた。
「そんなにいそがなくてもちゃんとあげるのに」
そんなにケチじゃないと憤慨する亘を見て、美鶴は吹き出した。
亘はきょとんとして、肩を震わせる亘を見つめる。やがてこらえきれなくなった美鶴の笑い声が、夕日の射す公園 に明るく弾けた。






06/07/08
亘は美鶴よりちょっと成長が遅くて(恋愛方面とか情緒的に)、美鶴はいつも少しだけそれに焦れてると萌えます・・・!(香川




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