がたたん、ごととん。がたたん、ごととん。がたたん…
電車特有の、一定でゆるやかな振動が音と同じリズムで伝わる。
頭と首筋にある自分のものより少し高い子どもの体温(美鶴も子どもだけれど)とそれが合わさって、なんとも言えない心地好さと眠気を誘う。
「ミ・ツ・ル!」
どうせ目的の駅まではまだしばらくあるし、たとえねすごしたとしても同行の誰かが起こしてくれるだろう、ならば寝てしまおうか…と微かに身じろぎすると、小さな声で名前を呼ばれた。亘だ。
今日は亘と美鶴含む数人のクラスメイトで屋外プールにへ行ってきた。この電車はその帰り道。
家からそれなりの距離がある場所だったが、それでも行く価値があるほどには広くスライダーなどの設備もそろっていて普段あまりはしゃがない美鶴も結構楽しむことができた。疲れてうとうとする程度には。
だから他のメンバーはきっとそれ以上にはしゃいでつかれているのだろう、行きの電車ではがやがやと一部は周りに顔をしかめられるほど騒いでいたが今はひどく静かで、亘の声は意識を手放そうとしている美鶴にもよく聞こえた。ついでに、クスクスと忍ぶような笑い声も。
目は閉じているからわからないが、おそらく美鶴が亘に寄りかかっているのをみて他の乗客(笑い声の高さから、おそらく主に女の人だろう。たとえば女子高生だとか、自分たちと同じ年頃の子どもをもつ母親だとか)が微笑ましいなどとわらっているのだろう。
さっき名前を呼ばれたのはそれに照れた亘が美鶴を起こそうとして声をかけたにちがいない。亘ははにかみやなところがあるから。声色は少し、咎めるようなものだったし。
「美鶴ってば、」
再び名前をよばれる。ゆりおこさないのは、起こすのが悪い気がするからだろうか。お人好しの亘らしい。かと言って乱暴に起こされたとしても目を開く気はなかったが。
照れる亘は可愛いし、高い体温は心地好い。眠たいのも事実だし、それになぜだか亘はいじめたくなるところがある。意地悪をしたくなるのだ。…あまりにまっすぐ素直だからだろうか。その実直さは感服するほどで、子どもらしくない美鶴は一種憧れをもつものだった。
子どもだから、と言う理由だけでは有り余るほどの純粋な強さ。愛されて育った人間特有の。それは美鶴が欲しくても手に入らないもので、すごく綺麗で手中に納めて綺麗なままとっておきたいのに、同じくらいによごしたくなる、こわしたくなる。…なんて、大仰なことを言っても言い訳にすぎないのかもしれないけれど。
と、カーブを通ったのだろうか、がたん、と一定だったリズムが崩れて車体が大きく揺れた。
肩の一点だけで支えられていた頭が外れて、あ、と思う間もなく落ちる。
「…っ、」
やばい、と思ったが、予想した衝撃はなく、かわりにぽすん、という小さな音とともに柔らかい場所に頭が落ちた。
「え…」
上のほうから間抜けた声が聞こえる。…と、言うことは。
(…膝枕、だ。)
どくん、と心臓が一気に波打って顔に熱が集まる。日焼けのものだけでなくきっとそれ以上に顔があかくなってる。
未発達ゆえの、男性のものよりは女性のものにちかく柔らかい、けれど少しほねばった感触。きゅ、と美鶴は形の良い唇を結んで、呼吸を落ち着けた。
はやる鼓動を耳のそばで聞きながら身じろぐと、はぁ、と小さなため息が聞こえる。亘のものだろう。
ややわざとらしいくらいに静かに呼吸をすると、す、と手が髪に触れる。柔らかくて小さな指先が髪をすく。
(…ああ、やばいな。)
確かに眠たかったのに、これだけで眠気がふっとんでしまった。
もう諦めて到着まで寝たフリをするしかない。流石に今起きるのははずかしすぎる。照れるのは亘のほうだけでいい。
(まあ、いいか。)
膝枕の感触も、髪をすく指の感触もひどく心地好いから。
だから、それだけで。
欲望エソロジィ
06/07/13
ぐだぐだですすみません土下座(桂木
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